和尚のひとりごとNo156「少欲知足(しょうよくちそく)」
『無量寿経』の中に、「有田憂田(うでんうでん)・有宅憂宅(うたくうたく)」という言葉が出てきます。田んぼが有れば、田んぼによって憂(うれ)い。家が有れば家によって憂(うれ)うという意味です。田んぼや広い土地が有ったら結構な事と思うけれども、その田んぼが有る事によって「水は大丈夫か」「肥料は足りているか」と憂いや心配事が出てくる。それが「有田憂田」。また屋敷が有ったら、大きな立派な家が建ったならば、それは嬉しい事ですが、同時に「火事にならんか」「泥棒に入られんか」と次から次に心配事が増えてくる。有れば結構な事と思うけれども、持っている人には持っている人の悩み、手に入れると手に入れただけの悩みが出てくるものです。更にこのお経の続きには、「無田亦憂、欲有田(むでんやくう、よくうでん)・無宅亦憂、欲有宅(むたくやくう、よくうたく)」と説かれます。田んぼが無ければ亦憂い、田んぼ有ればと欲する。家が無ければ亦憂い、家が有ればと欲するという意味です。
有田憂田 有宅憂宅 無田亦憂 欲有田 無宅亦憂 欲有宅
ただ単に人間は強欲だと言う事ではありません。どれだけのものを手に入れたとしても悩み事、憂い事は次から次へと出てくるものです。或いはこの人生、生きて行く上でどんな道を辿ったとしても、どんな選択をしたとしても悩み憂いから決して離れる事はないというのが人間であり、又無ければ無いで欲や憂いが出てくると説かれるのです。
お金が有る事が幸せだ。「高収入」=「成功者」と言うのは一時のまやかしとも言われます。世界有数の大富豪者になったビル・ゲイツさん。マイクロソフトという会社を作った方です。現代のI・T社会の先駆けとなったソフトウェアを作って、巨万の富を得た方です。そのビル・ゲイツさんが「金持ちで得する事はあまりない」と言っておられます。お金を得る為に時間や人、家族を犠牲にして、それだけ仕事をしてきたその結果のお金。振り返ってみたら、「もう少し自分の為に時間を使えば良かった」、「家族との時間を大切にしておけば」と色々憂い事は出てくるものです。今すでに満ち足りている事に感謝し、現状を喜ぶ事で幸せを感じられるものです。今いる自分の立場を喜ばせていただき、お念仏申して過ごして参りましょう。