和尚のひとりごとNo162「善き行いに 善き心」
昔、中国に白楽天(はくらくてん)というお方が居られました。国を治めていくに当たり、道林禅師(どうりんぜんじ)という僧侶にどの様な政(まつりごと)をすれば良いか尋ねられました。白楽天がお寺を訪ねると道林禅師は木の上で座禅を組んで居られました。ビックリした白楽天は、「そんな所で座禅を組んで居ては危ないですよ。」と言うと、禅師は、「危ないのはそなたの方じゃ。」と返されました。白楽天は、「私は大地の上に立っておりますから全然危なくありません。木から落ちたらどうするのですか。あなたの方が危ないです。」と言うと、「いやいや危ないのはそなたじゃ。」とまた禅師に返されました。「どうして私の方が危ないのですか。」と聞き返しますと禅師は、「お前の思い一つで世の中が変わる。この国が良くなるか悪くなるかはお前の心一つである。だから危ないのじゃ。」と仰られました。「ですから私は禅師に教えを請うて、それでこの国を治めていきたいと思い尋ねて参りました。」と言うと道林禅師は、
「諸悪莫作(しょあくまくさ) 衆善奉行(しゅぜんぶぎょう)
自浄其意(じじょうごい) 是諸仏教(ぜしょぶっきょう)」
<意訳>
「諸々の悪をなす事なかれ 諸々の善を奉行せよ
自らその心を浄(きよ)くする これ諸仏の教えなり」
と仰られました。それを聞いた白楽天は、「そんな事ぐらいは百も承知です。もっと違う仏教の奥義を教えて頂きたい。」と再度お願いすると禅師は、「たとえ三歳の童子これを知るといえども、八十の翁(おきな)これを守る事を得ず。」と返答されました。
「善い事をしなさい。悪い事をしてはいけませんという事は三つの子供でも知っている事です。しかし八十歳になってもなかなか守る事が出来ないものですよ。だからその心というものをしっかりと心得て守っていけば宜しい。それが仏様の教えです。」と仰せになられたのです。
仏教の根本は、どんな悪い事も致しません。どんな小さな善い事でも進んでしていきましょう。そして私(自分)の心を浄(きよ)くしていく事が仏の教えであります。心を浄くするというのは、自分勝手な欲を起こさず、損得を考えず、善い行いを進んでしていく事です。出来るだけ善き心を育てさせていただいて、日々和やかにお念仏申して過ごして参りましょう。