和尚のひとりごとNo163「利剣名号」
”南無阿弥陀佛”の六字名号は私たち浄土宗にとり大切なものです。その名号にも様々なスタイルがあれますが、世に言う「利剣名号」(りけんのみょうごう)ほど力強く私たちを惹きつけるものはないでしょう。
特徴的なその書体は、字画の末端を剣のように鋭く描き、それにより悪しき因縁を断ち切ることが願われていると言われています。
法然上人が師と仰ぐ善導大師の残した『般舟讃』にはこうあります。
「門門不同八万四(もんもんふどうまちまんし)、為滅無明果業因(いめつむみょうかごういん)、利剣即是弥陀号(りけんそくぜみだごう)、一声称念罪皆除(いっしょうしょうねんざいかいじょ)」
すなわち、数ある仏の法門〈お経のことです〉は須く(すべからく)覚りを曇らす無明を滅し、煩悩を断つものとして同じである。
その中でも阿弥陀佛の名号はひとこえ称えれば、私たちの全ての罪を除いてくれる勝れたものであると。これが「利剣名号」の典拠であると言われています。
さて現代から遡ること680年前の昔、後醍醐天皇の元弘元年(一三三一)のこと、天災飢饉や疫病といった天変地異で世は大いに乱れ、人々は困窮していました。多くの罪なき民が亡くなる中、後醍醐天皇の御下命(ごかめい)で当時の百万遍知恩寺第八世の空円に白羽の矢が立てられました。普寂国師空円は後に浄土宗第三祖良忠上人にも師事された方で、宮中における七日間にもわたる百万遍念佛の修法で猛威を振う疫病を鎮めたと言われています。 百万遍知恩寺は、この効験により弘法大師空海作と伝えられる「利剣名号」と「知恩寺」の勅額を賜ったと言われています。
皆さまも機会があれば是非、「利剣名号」の書をご覧頂き、阿弥陀佛の名号の功徳を実感してください。