和尚のひとりごとNo175「五重相傳」
五重相伝(ごじゅうそうでん)は私たちの浄土宗で最も大切な法要の一つであります。
南北朝時代に活躍された浄土宗七祖の聖冏(しょうげい)上人は、当時浄土宗が独立した宗派としては認められていなかった状況を嘆いて、浄土宗に受け継がれてきた宗脈(しゅうみゃく)と戒脈(かいみゃく)とを明らかにし、伝法制度を確立されました。能化(僧侶)たる者は一定の期間(現在では3週間とされています)、大本山知恩院もしくは総本山増上寺にて伝宗伝戒を受ける、加行(けぎょう)と呼ばれるこの道場において受け継ぐものが、まさに釈尊から脈々と受け継がれてきたこの浄土宗の血脈(けちみゃく)であります。
そしてこのうち、教えの真髄である宗脈を在家の信徒の皆さまに授けるのが、結縁五重(けちえんごじゅう)とも呼ばれるこの「五重相伝」となります。
「五重」には、御念仏の教えの最も重要なテーマを、五段階のプロセスを積み重ねて理解して頂くという意味が込められており、参加された皆さまには5日間かけてお念仏の教えの肝要を分かりやすく相伝致します。
無事満行(まんぎょう)されれば、お念仏の教えを確かに受け取った証(あかし)として伝巻(でんかん)つまり血脈(けちみやく)が本山から授与され、正式な仏弟子としてのお名前である誉号(よごう)と呼ばれる戒名が授けられます。
もしかしたら皆さんは、5日間というのは長過ぎると感じられるかも知れません。しかし更に長い一生において僅か5日間の修行によって、お念仏の教えを体得し、その後の人生の心の安らぎを得ることが出来る、更にいえば「必ず往生できる」というお墨付きを頂ける誠に得難い勝縁であるとも言えます。
5日間にわたり勧誡師(かんかいし)のお説教を身体で感じ、一緒に声を合わせて念仏を称える中で、浄土往生へ私たちを導く種が心に宿りそれがやがては必ずや芽吹いていきます。目に見える証とともに、目には見えない心の糧を手にして頂ける、その後の人生を念仏を申す仏教徒として明るく生きてゆく道を開く、それが五重相伝であります。