和尚のひとりごと「仏名会」
先日は立冬を迎え、いよいよ歳末に向かう世相となって参りました。さて年末12月には全国各地の寺院で仏名会が開かれます。これは毎年師走の中旬の3昼夜を通して、過去・現在・未来という三世の諸仏の御名(みな)を唱えて、その年に犯してしまった罪障(罪 つみ・咎 とが)を懺悔(さんげ)し、その滅罪ならびに生善(罪が消滅し、善へと転化すること)を祈る法会であります。その歴史を紐解けば、遥か天平の昔より宮中内裏にて始められ、平安時代には恒例行事となりました。
”諸仏の名号を受持し、その功徳によって懺悔滅罪(さんげめつざい)すべきこと”、このことがはっきり表現されている経典は『仏名経(ぶつみょうきょう)』として知られる《三劫三千諸仏名経(さんこうさんぜんぶつみょうきょう)》であり、これが数ある異本の中で最も完備したものとされています。またこの発想は遠く仏教の故地インドに遡るものであり、中国に伝わると後代に至るまで仏名を唱和することは盛んに行われていたようで、日本仏教の淵源のひとつ敦煌においても類する経典が発見されています。
奈良東大寺の仏名会では、過去を表わす薬師如来・現在を表わす釈迦如来・未来を表わす阿弥陀如来の三仏を主尊とし、それぞれの仏が描かれた大きな掛け軸を祀り、そのいずれかに向かい僧侶たちが全身を擲(なげう)って礼拝を行います。その際、3つの掛け軸にはそれぞれ千体の仏が描かれ、毎年礼拝の対象となるのはいずれか1つである為、3年がかりで一千づつ計三千の仏を巡ることになります。ちなみに本年令和3年は未来仏である阿弥陀如来がその対象となるそうです。
東大寺二月堂の恒例行事といえば修二会(お水取り)が有名であり、練行衆(れんぎょうしゅう)と呼ばれる僧侶たちによる激しい礼拝が知られていますが、この一千仏に対する懺悔の礼拝も、両膝・両肘・額の五体を疊にすりつけては立ち上がる五体投地が基本とされています。
さて我が浄土宗の総本山知恩院でも古くからこの仏名会が行われてきました。現在では12月2日から4日までの3日間に渡り、三千仏画を掲げて『仏名経』が唱えられます。
ところでこの仏名会の背景には、仏さまという存在はこの世界にただ一人しかいないのではなくて、私たちが暮らすこの世界以外にも数多くの世界があり、それぞれに仏が出現されているという発想に基づいています。さらに現在だけではなくて過去や未来を含めて考えると、実に無数の仏さまが現れても不思議ではないはずです。浄土宗では、それらの諸仏に対して心から自らの罪を懺悔するとともに、その罪を洗い流すために懺悔礼拝を勤め、日々のお念仏も欠かさないように薦めています。
何気ない日々の生活においても、気づかぬうちに様々な罪を作ってしまうのが私たちの偽らざる姿なのかも知れません。年末の慌ただしい時期ですが、皆さまも改めて自分の心を見つめ、仏さまに手を合わせるよい機会としていただければ幸いです。